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鬼平深読み帳

名編揃いの第1シリーズは、原作者が観た最後の“鬼平”。

中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』がスタートしたのは1989年。つまり平成元年の7月からで、翌年2月まで26本が放送された。原作者・池波正太郎が90年の5月3日に67歳で亡くなったことを思うと、この第1シリーズは原作者が実際に観た、最後の映像化された池波作品ということになる。中村吉右衛門に次の鬼平をやらせたいと言ったのは池波正太郎だったとプロデューサーの市川久夫に聞いたことがあるが、その吉右衛門版「鬼平犯科帳」の始まりを観て亡くなったのは、原作者も本望だったろう。私は第5シリーズを撮影していた頃、主要スタッフと俳優にインタビューしたが、誰もが第1シリーズが一番思い出深いと言っていた。

第1シリーズは何よりもエピソードが粒ぞろいで、ファンの人気が高い名編ばかり。特に前半では相模の彦十(第2話)、小房の粂八(第4話)、おまさ(第5話)とレギュラーの密偵が一人、また一人と新加入してくるのも楽しい。おまさ役の梶芽衣子は、吉右衛門の「鬼平犯科帳」が始まることを知って自らおまさ役に名乗りを挙げ、たまたまキャスティングが決まっていなかったのでこの役に抜擢された。運と偶然が、梶芽衣子のおまさを生んだのである。また密偵だけでなく、沼田爆演じる食いしん坊の同心“猫どの”こと村松忠之進も第3話から登場。この回で早くも木村忠吾ともり蕎麦を食べながら蕎麦に関するうんちくを語り、第4話では初めて同心たちに役宅でお手製の鮎飯をふるまっている。

ショートリリーフとも言えるレギュラーが第3話から出てくる柄本明扮する同心・小野十蔵で、彼は第4話にも登場するが、第6話「むっつり十蔵」で盗賊の女房に同情したことから思いもよらない運命に見まわれる。一つのエピソードだけに出てくる同心はいるが、彼のように何話か登場するキャラクターは珍しい。後の作品のように出演者の顔ぶれがキッチリと固まった中で展開する作品もいいが、第1シリーズには“鬼平”の世界が徐々にできていく過程を観ていく楽しさがあるのだ。