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鬼平深読み帳

様々なメディアで劇化された名エピソード「狐火」

第1シリーズ第11話の「狐火」は、おまさが10年前に深い仲だった盗賊“狐火”の二代目・勇五郎と再会し、女としての恋心と平蔵の密偵としての立場との間で揺れる物語。おまさの“女”の顔が最もよく出たエピソードで、ファンの間でも人気が高い。それだけに原点の小説を始め、TVドラマ、舞台、アニメーションになり、95年の劇場版「鬼平犯科帳」にもこの話が挿入されている。今回のドラマでは勇五郎を速水亮が演じているが、劇場版では世良公則が勇五郎に扮して、おまさの梶芽衣子としっとりとした愛の形を見せてくれた。TVドラマでは他に先代・松本白鸚主演と、萬屋錦之介主演の『鬼平犯科帳』のときに映像化されている。白鸚版では野上龍雄の脚本が使われたが、今回は錦之介のときと同じ星川清司による脚本を元にしている。

舞台では三度上演され、初演と2回目の公演では池波正太郎自身が脚色と演出を担当。71年の初演では先代・松本白鸚が平蔵に扮し、勇五郎には現在の松本白鸚、そして偽の“狐火”を名乗る勇五郎の弟・文吉を中村吉右衛門が演じた。78年の舞台では高橋英樹が平蔵に扮していて、おまさ=宮園純子、勇五郎=青山良彦という顔ぶれ。90年の歌舞伎座公演では中村吉右衛門の平蔵に、おまさ=中村福助、勇五郎=10代目・坂東三津五郎という配役だった。数ある『鬼平犯科帳』のエピソードの中で、これほど様々なメディアで何度も劇化されたものは稀だが、それだけよく出来た物語と言えるだろう。

最後にちょっとした“奇縁”とも言える繋がりを披露しよう。今回の脚本を担当した星川清司は63年に大映京都撮影所と契約し、「新選組始末記」で初めて時代劇の脚本を書いた。これは当初、藤巻潤主演で企画された映画だったが、その脚本を市川雷蔵が気に入って自分が主演したいと主張。雷蔵の主演映画として完成し、以来星川清司と雷蔵は『眠狂四郎』シリーズなどで名コンビを組むことになった。その雷蔵が結婚した相手は、大映の社長・永田雅一の養女・雅子。雷蔵の本名は太田吉哉で、彼女は結婚して太田雅子になった。そして今回のドラマでおまさを演じた梶芽衣子の本名はやはり太田雅子で、脚本家の星川清司を挟んで雷蔵と“鬼平”が繋がったような縁を感じる。そんなことを思いながら「狐火」を楽しむのも一興だろう。