機能リンク
  • 加入申し込み
  • 会員登録
  • 番組表

鬼平深読み帳

決まり事よりも自由を求めて変貌した平蔵の時代の女遊び

第6シリーズ第1話のスペシャル「蛇苺の女」は、原作小説『蛇苺』のドラマ化。盗賊・沼目の太四郎と深い仲になった、腕利きの嘗役・針ヶ谷の宗助の女房・おさわが、太四郎を使って亭主を殺そうとする話である。余貴美子が色好みの悪女、おさわをはまり役で演じている。因みに平蔵が太四郎と宗助を初めて見かける亀戸天神の料理屋『玉屋』で働いているおさきは、かつて盗賊に手籠めにされた過去があるという設定。原作では彼女は第7シリーズ「妖盗葵小僧」に出てくる、兇賊・葵小僧に犯されたことになっていた。

ここでは料理屋『玉屋』が太四郎と宗助の密会場所に選ばれるが、この当時は男女の秘め事でも料理屋が頻繁に使われた。それだけではなく料理屋は、遊郭の仮営業所にもなっていたという。例えば平蔵が火付盗賊改方長官に任命された天明7年(1787)の11月、幕府公認の遊里・吉原が火事によって全焼した。吉原の遊郭は全焼した場合、町奉行所の許可を得て他の地域で営業することが許される。これを〈仮宅〉といって、その地域はその都度指定を受けたが、天明7年の場合は深川、中洲、高輪が〈仮宅〉に指定された。その営業場所は料理屋や寮(商人などの別荘)、あるいは普通の町家で、〈仮宅〉営業はかなり儲かったという。というのも遊びごとの段取りに決まりが多い吉原と違って、格式ばらずに安く女と遊べ、さらに営業場所が市街地に近いという理由もあった。特に深川は非公認の遊里で岡場所とも呼ばれたが、その気取らない自由な雰囲気は、吉原から焼け出された遊女にも人気だった。これによって平蔵の時代あたりから江戸の遊里の中心は、吉原から深川へと移っていった。その気取らない自由へと傾斜する時代の空気が、おさわのようなどこかだらしなくて色と金にしか興味のない、悪女を生んだ背景にあるのではないか。そんなことを想いながら「蛇苺の女」を観ると、さらに興味が増すのではないだろうか?