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鬼平深読み帳

様々な愛の形に踏み込んだ。池波正太郎作品の面白さ

『鬼平犯科帳』シリーズには、スペシャルを合わせて5回出演。そのうち4回は盗賊を演じた俳優・平泉成。CSで放送された『鬼平外伝』シリーズには、長谷川平蔵の配下で与力の鮫島久兵衛としても準レギュラー出演した彼が、第5シリーズの「浅草・鳥越橋」で押切の定七を演じている。これは、盗賊・傘山の瀬兵衛の指図で引き込みとして越後屋に入った風穴の仁助が、瀬兵衛はお前の女房を寝取ったと定七に吹き込まれ、心が揺れる物語。平泉成は盗賊仲間からも蔑まれる、裏切り者の悪党を印象的に演じている。

面白いのは平蔵が、定七が仁助を裏切り者の仲間に引き入れようとしたのは、彼に男色の気があったのではないかと推理するところ。実際茶店で定七が仁助の手を握る場面などに、その感じが出ている。このように同性愛を匂わせるエピソードには、例えば木村忠吾が男色の盗賊・寺内武兵衛に誘拐される第9シリーズの「一本饂飩」、おまさにレズビアン的な愛情を寄せる妖艶な荒神のお夏が出てくる第3シリーズの「炎の色」、あるいは女を買う女性美剣士・津山薫が登場する第8シリーズの「はぐれ鳥」などがある。同性愛ではないが、原作者・池波正太郎の『剣客商売』シリーズには男勝りの美貌の剣士・佐々木三冬が登場して、彼女が女性として目覚めていく過程が描かれている。池波正太郎は他の小説でも同性愛をテーマにした作品をいくつも書いているが、江戸時代には男娼専門の陰間茶屋があったわけだし、侍同士の同性愛はさほど珍しくもなかったことを思えば、これは不思議ではない。ただ彼ほどの人気作家でこういうテーマに切り込んだ作品を多数残した人は、それほどいないだろう。彼は人間を一つの見方で捉えるのではなくて、愛の形も含めて一人一人の多面的な魅力を描き出した。そういう姿勢は10代半ばから社会に出て働き、様々な人間と出会ってきた池波正太郎の実感でもあったのではないか。だからこそまた『鬼平犯科帳』シリーズは、単なる勧善懲悪の時代小説とは一線画して、深い人間観察ドラマとしても面白いのだ。