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鬼平深読み帳

原作にはない、オリジナルストーリーが登場!

『鬼平犯科帳』の第5シリーズには、元ピンク・レディーの増田恵子がゲストで出演した「お菊と幸助」というエピソードが登場する。これは平蔵の役宅にかつて奉公していたお菊が、亭主の伝吉の働き口を世話してほしいと平蔵の妻・久栄を頼り、久栄が伝吉に世話した上州屋が盗賊に襲われたことから、波紋が広がっていくもの。お菊は亡き密偵の娘で、その素性をネタに盗賊から脅されているという背景があり、盗賊仲間から“犬”と呼ばれて嫌われている密偵の弱い立場を映し出した、いかにも池波正太郎の世界という感じがする物語だ。

しかしこれは、意外にもTVドラマ版のオリジナルストーリー。基本的に『鬼平犯科帳』シリーズは内容にTV的なアレンジを加えることはあるが、池波正太郎の原作にあるエピソード、あるいは『にっぽん怪盗伝』などの姉妹編とも言える短編小説集を原作にして、ドラマが作られている。だが初代・松本白鸚主演の『鬼平犯科帳』(69〜72年)を作っているときに、当時連載中だった原作のネタが尽きてしまった。そこでこのTVシリーズを立ち上げたプロデューサー・市川久夫は池波の了解をとって、オリジナル・エピソードを脚本家に書かせたのだ。下飯坂菊馬の脚本による「お菊と幸助」は、そういう苦肉の策の中から生まれた1本なのである。池波は脚本家のアイデアを基に物語の構成にもタッチしていて、実際に白鸚版で使われた脚本も見たことがあるが、それには江戸言葉の使い方などで、セリフに原作者本人の朱筆訂正が書き込まれていた。作家でありながら新国劇の劇作家でもあった池波正太郎にとって、これは脚本家の手を借りながらドラマとして書かれたもうひとつの小説であり、フィルムで撮られた劇でもあったのだろう。そういう意味で“鬼平”ファンにも、池波ファンにも貴重な1本と言える作品だ。