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鬼平深読み帳

鬼平犯科帳 第2シリーズ 第十九話 春の淡雪

「春の淡雪」は原作だと『穴』に登場する引退した盗賊・平野屋源助の手下・茂兵衛が絡むエピソードだが、ドラマはその部分を削ぎ落とし、盗賊・池田屋五平の娘を攫った雪崩の清松と、密偵の清松に脅迫される火盗改方・大島勇五郎に目を付けた、平蔵たちの活躍を描くシンプルな物語になっている。原作の大島は剣術がまるで駄目で気も弱い男だが、ここで中村浩太郎演じる大島同心は仕事でミスをしてもけろりとしている、平蔵から見れば理解できない新世代のキャラクター。平蔵の前で盗賊が合図に使う“つなぎ笛”を吹いて見せるのを恥ずかしがる五郎蔵など、脚本の野上龍雄によるユーモアも楽しい作品だ。


注目したいのが、清松にゆすられる盗賊・池田屋五平を演じた二代目・中村又五郎だ。又五郎と池波正太郎作品とのかかわりは深く、『剣客商売』の主人公・秋山小兵衛の人物イメージは彼をモデルにしたものだし、TVの池波作品だけでも時代劇スペシャルの加藤剛主演版『剣客商売』シリーズでは秋山小兵衛を、小林桂樹主演の『仕掛人・藤枝梅安』シリーズでは元締・音羽の半右衛門を演じ、中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』では「春の淡雪」を含めて「暗剣白梅香」(第1シリーズ)、「討ち入り市兵衛」(第4シリーズ)、「寒月六間掘」(第7シリーズ)と四度ゲストで登場している。池波正太郎は彼の芸と人間像に密着した『又五郎の春秋』という評伝も書いていて、公私ともに付き合いが深かった。さらに父親を早くに亡くした又五郎は、先代・中村吉右衛門に子供の頃から歌舞伎役者として芸を教え込まれ、当代の中村吉右衛門とは縁戚関係に当たる。又五郎は09年に94歳で亡くなったが、生前にインタビューをしたことがある。その時彼は「我々歌舞伎役者は商人なら商人らしく、武士なら武士らしくと“らしく”演じることが大事なんです」を語ってくれた。ここでも娘を攫われた妾のお八重に優しい言葉を懸けた次の瞬間、清松からの連絡が来たと手下に言われると厳しい顔へと転じて、まさに“盗賊のお頭らしい”風格を示す演技が見事。『鬼平犯科帳』は、又五郎のような名優に支えられたシリーズでもあるのだ。